
WordPressのマルチサイトを避けるべきデメリットとは
目次
WordPressのマルチサイトを避けるべき理由について
WordPressには「マルチサイト」と呼ばれる便利な機能があります。一つのWordPressインストールで複数のサイトを管理できるため、企業や団体が複数のウェブサイトを一括運用したい場合には魅力的な選択肢です。
しかし、その一方で、マルチサイトには導入前にしっかり理解しておくべき重大なデメリットも存在します。
このコラムでは、WordPressのマルチサイトを採用する前に立ち止まって考えるべき「避けるべき理由」、すなわちデメリットを中心に、現場でよく起きる課題や運用上のリスクまで含めて詳しく解説します。
マルチサイトとは何かを改めて確認する
WordPressのマルチサイト機能とは、ひとつのWordPressのインストールによって複数のサイトを管理できる仕組みのことを指します。通常であれば、複数のサイトを運用するためには、その数だけWordPressを個別にインストールし、それぞれを別々に管理する必要があります。しかしマルチサイトを有効にすれば、1回のインストールで複数のサイトをネットワークとして束ね、同じ管理画面から一元的に制御できるようになります。
サイトの構成形式としては、サブドメイン型(たとえば「shop.example.com」や「blog.example.com」)やサブディレクトリ型(たとえば「example.com/shop/」や「example.com/blog/」)といった形で展開されることが一般的です。これにより、複数のサイトを「統一された枠組み」の中で運用することが可能となり、見た目にも組織的にも整った管理がしやすくなります。
たとえば、本社が複数の支社ごとに異なるウェブサイトを持ちたいと考えたときや、教育機関が各学部に独自のページを持たせたいとき、またはフランチャイズチェーンが各店舗の情報を同一ドメイン下で展開したい場合などに、マルチサイトは非常に魅力的な選択肢として浮上してきます。
しかし、この「ひとまとめにできる」という便利さの裏には、サイト同士が密接に依存し合うという大きな特性があります。そのことが、トラブル発生時や将来的な変更・拡張の局面において、思わぬ足かせになることが少なくありません。
サイト同士が完全に独立していないというリスク
マルチサイトの構造上の最大の特徴は、すべてのサブサイトが同じWordPressインストールとデータベースを共有している点にあります。個々のサブサイトは外見上は別々のサイトに見えますが、内部ではすべてがつながっており、完全に独立して動作しているわけではありません。
この構造が持つリスクは非常に大きく、たとえばひとつのサブサイトにセキュリティ上の欠陥が発生した場合、その影響がネットワーク全体に及ぶ可能性があります。仮にあるサイトが不正アクセスを受けたとすれば、その被害が他のサブサイトにも波及し、同時に複数のサイトが改ざんされたり、停止に追い込まれたりするおそれがあります。
また、マルチサイトではユーザー管理も特殊です。ネットワーク全体の「スーパー管理者」はすべてのサイトを統括できる一方で、各サブサイトの管理者には制限がつきます。このため、サブサイトの運用担当者が思うように設定を変更できなかったり、独自の機能を導入したくても制約がかかってしまったりするケースもあるのです。
見た目以上に複雑で密接に結びついたこの構造が、のちのちの運用に大きな壁となることは、あらかじめ理解しておくべきです。
プラグインやテーマの互換性に制限がある
マルチサイト環境では、利用できるプラグインやテーマにも制約がかかることがしばしばあります。WordPressのエコシステムには無数のプラグインが存在しますが、その多くは通常の単一サイト用に設計されており、マルチサイトに対応していないものも少なくありません。
とくに注意が必要なのは、SEO管理やキャッシュ制御、ユーザーアクセス制限といった高度な処理を行うプラグインです。これらはサイト単位で細かい設定が必要になることが多いのですが、マルチサイトでは全サイトに一律で反映されてしまい、結果として意図しない挙動を招くことがあります。
テーマに関しても、マルチサイトで使用した際にテンプレートが崩れたり、カスタム投稿の設定が反映されなかったりするケースがあり、動作確認に多くの時間と労力を要します。あるサブサイトだけで特定のテーマを使いたいというニーズにも、対応できない可能性があります。
このように、マルチサイトを利用することで、本来活用できたはずの機能やツールが使えなくなる、あるいは導入が困難になるという場面が数多く発生するのです。
サーバーのトラブルが全サイトに影響する
マルチサイトでは、すべてのサブサイトが同一のサーバー環境、同一のWordPressコア、そして同一のデータベースを共有しています。これは、ひとつのサーバーで複数のシステムが共存しているということにほかなりません。
この仕組みは効率的な反面、ひとたび何らかの障害が起きると、その影響がすべてのサイトに及ぶことになります。たとえば、あるサブサイトがSNSで拡散されアクセスが急増した場合、そのサーバーリソースが急激に消費され、他のサイトの表示速度が極端に低下することがあります。さらに深刻なケースでは、すべてのサブサイトが同時にダウンするという状況すら起こり得ます。
また、ひとつのサブサイトが悪意ある攻撃者の標的になった場合、セキュリティインシデントの影響範囲がマルチサイト全体に及ぶ危険性も否定できません。つまり、どれだけ他のサイトが慎重に運営されていても、ひとつの問題が全体の信頼性を損なうという構造上のリスクを常に抱えているのです。
バックアップと復元が複雑
マルチサイト環境では、1つのWordPressデータベースの中に、複数のサブサイト分のテーブルが格納されています。それぞれのテーブルは識別子によって区別されてはいるものの、同一の構造の中に複数サイトのデータが共存しているという構造です。
このため、通常の単体サイトであれば簡単に済むバックアップ作業も、マルチサイトでは格段に難易度が上がります。特定のサブサイトだけをバックアップしたい、あるいはその1サイトだけを復元したいというニーズが発生した場合、必要なテーブルやメディアファイルを手動で選別しなければならず、作業の煩雑さは相当なものです。
復元作業においても、たった一行のSQLミスが他サイトのデータに影響を与えてしまう可能性があり、操作には細心の注意が必要です。加えて、メディアファイルの格納場所も特殊な構造になっているため、画像やPDFファイルのリンク切れが発生しやすいという問題もあります。
こうした背景から、マルチサイトでは日々のバックアップ運用にもより高度な知識と丁寧なプロセスが求められます。定期的なメンテナンスを怠れば、万が一の際にリカバリが困難になるという重大なリスクが存在するのです。
サイトの移行・独立が困難
マルチサイトで作成されたサブサイトを、あとになって別のWordPressとして独立させたいというケースは珍しくありません。たとえば、支社のひとつが独立して自社サイトとして運用を続けたいといった場合です。
しかし、マルチサイトで運用されているサイトを単体のWordPressに移行する作業は、想像以上に手間がかかります。データのエクスポート・インポートは基本的に可能ですが、すべての設定やデザイン、メディアファイルの構成まで完璧に移行できるとは限りません。とくにURL構造の違いやデータベース構造の差異、ファイル保存先の変更により、リンク切れや表示崩れが発生しやすくなります。
また、テーマやプラグインの設定も再構築が必要になる場合が多く、ただの「コピー&ペースト」では済まない高度な対応が求められます。これらの作業を手作業で行うとなると、サイトの規模が大きければ大きいほど、時間的にも技術的にも負担が増大します。
つまり、マルチサイトでの構築は「始めるのは簡単だが、離脱するのは難しい」という側面があることを、事前に十分理解しておく必要があります
運営・管理者の混乱が起きやすい
WordPressのマルチサイトでは、「ネットワーク管理者」と「各サブサイトの管理者」という2つの管理権限が存在します。この仕組みは一見便利ですが、現場ではかえって混乱を招くことも多いです。
サブサイトの管理者には、プラグインの追加やテーマのインストールなど、一部の操作が制限されており、「管理者なのに自由にカスタマイズできない」といった不満につながりやすくなります。加えて、ネットワーク全体の設定を変更する際、他のサブサイトに影響が出るリスクもあり、運用上の配慮が必要です。
また、WordPressの操作に不慣れな担当者が管理を行う場合、ネットワーク管理とサブサイト管理の違いが理解しにくく、誤操作や問い合わせの増加につながることもあります。マルチサイトの導入には、明確な運用ルールやサポート体制を整えることが欠かせません。
セキュリティの管理が高度になる
マルチサイトでは、すべてのサイトが同じWordPress本体とデータベースを共有しているため、ひとつのセキュリティ問題が全体に影響する可能性があります。たとえば、1つのサブサイトで使われている古いプラグインに脆弱性があれば、そこからネットワーク全体に侵入されるリスクも否定できません。
さらに、ユーザー管理が全体に及ぶことで、意図しないアクセスや誤った権限付与が起きやすくなります。セキュリティレベルの異なる複数のサイトを同じポリシーで管理するのも難しく、更新や監視などの日常的な対策も複雑になります。
マルチサイトのセキュリティ運用には、専門的な知識と継続的な管理体制が必要です。導入のハードルは低くても、安定した運用には高いスキルと準備が求められる点を見落としてはいけません。
専門知識がないとトラブル対応が困難
マルチサイトは便利な反面、通常のWordPressに比べて構造が複雑であるため、ちょっとした不具合が発生しただけでも、その原因特定や解決が困難になることがあります。ネットワーク全体の設定はもちろん、.htaccessやwp-config.phpといったコアファイルの記述も独特であり、誤った記述を加えるとすべてのサブサイトがアクセス不能になるおそれもあります。
さらに、サーバーの設定やパーミッションの制御、SSL証明書のドメインごとの適用方法、マルチドメイン運用のリライトルールなど、Webサーバー側の理解も不可欠です。加えて、トラブルの原因がテーマなのか、プラグインの競合なのか、WordPress自体の問題なのかを見極めるには、相応の経験と知識が求められます。
このような背景から、マルチサイトを導入する際には、単に「便利そうだから」という理由だけで選択するのではなく、実際の運用フェーズにおいて技術的な支援体制が整っているかどうかをよく検討すべきです。導入後に想定外のトラブルが起きたとしても、適切に対応できる人材や業者が身近にいることは、マルチサイト成功の大きな鍵となるでしょう。
結局、マルチサイトを使うべきケースは限られている
もちろん、マルチサイトが絶対に悪いというわけではありません。同一組織内で構成や運用ルールを統一できる場合、または特定用途(例:教育機関やフランチャイズ展開など)で一元管理が強みになるケースでは、適切に運用すれば非常に便利な仕組みとなり得ます。
しかし、それらの恩恵を最大化するには、十分な運用計画、管理体制、セキュリティ対策、そして保守の体制が前提となります。もしそこまでのリソースを確保できないのであれば、マルチサイトはかえってリスクを増やす要因となるでしょう。
まとめ
便利さに潜む複雑性を見抜くことが重要
マルチサイトはWordPressの機能として非常に強力であり、適切に使えば多サイト運用を効率的に進めるための有効な手段となります。しかし、導入ハードルの低さに比して、管理・保守・セキュリティ・トラブル対応といった面では通常のWordPressよりも圧倒的に複雑でリスクが高いという現実を見逃してはなりません。
複数のサイトを運営したい場合には、まずは「本当にマルチサイトである必要があるのか?」を慎重に見極めることが第一です。場合によっては、通常のWordPressを複数インストールする方が結果として柔軟性が高く、トラブル対応もしやすくなります。
マルチサイト導入は「便利そうだから」という理由だけで選ぶべきではありません。慎重な判断と、確かな運用設計こそが求められるのです。
このコラムを書いた人

さぽたん
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